ウメの母親は長野県の出身で、弟が三人いる。
実家には長男、そしてその周辺にそれぞれ家を建てて、次男と三男が住んでいる。
日曜日の夕食時、ウメと食べ物の話をしていて、「あ~、念(ねん)ちゃんの打った蕎麦(そば)が食べたくなっちゃった~」とウメが言った。
いきなり「念ちゃん」という名前が出てきたら、瞬間僕にはウメの長野の叔父の内の一人、くらいしか判らない。
「念ちゃん、言(ゆ)うのは何番目の叔父さんや?」
「次男だよ」
「ほいじゃあ、胆(たん)ちゃんは?」
「三男だよ」
「鉢(はっ)ちゃんは?」
「長男だよ」
「ドンちゃんは?」
「それはお寺の犬なんだよ」
ここで二人で笑い始めた。
ウメは「ハハハハハハ・・・」で終ったが、僕は自分で言った冗談なのに、上半身をのけぞらし、天井を見ながら「ハハハハハハ・・・」、「ヒヒヒヒヒヒ・・・」を何度か繰り返して笑った。
人間である三人の「〇〇ちゃん」と呼ばれるウメの叔父たちの中に、犬の「ドンちゃん」を練り込んで質問した事と、あたかも「ドンちゃん」と呼ばれる叔父がいる、と勘違いしているかのような僕の問いに、ウメの冷静に説明するような答え方が、僕には余りにも可笑しかった。
(ウメと僕の会話部分を書きながら、未だに二度笑っている)
という訳で、お寺の犬のドンちゃん・・・。
何故、ドンをウメの叔父に仕立てた話になったか、そのきっかけになる事が前日の土曜日にあった。
去年の時点で18歳だと言うドン。
これはドンが言ったわけではない。
お寺の隣の花屋のおじさんが教えてくれた。
長く暑い夏をひたすら耐え切ったドンの動きは、秋から冬にかけてほんの少しだけ軽やかだった。
春になって何度かドンを見にお寺に寄ったが、いつも犬小屋の中で眠っていて、呼んでも起きない。
足を突っついて起そうとした事もあったが、その度にピクッ、ピクッと引っ込めるだけ。
夏の頃は眠っていても何度か呼べば起きてきたが、今年の春になって、耳は遠くなり、眠りがとても深くなったようだ。
でもドンを見に行ったこの日は、曇りがちの空に時々晴れ間が見える蒸し暑い日で、ドンは犬小屋から出て地面で寝ていた。
ウメと二人で「ドン、ドンや」と3回ほど呼ぶと、ドンはゆっくり起き上がって、尻尾をゆっくりブイ~ン、ブイ~ンと振りながらこちらに歩いてきた。
頭を撫でると直ぐに地面に伏して、撫でている手を舐めたり、手に頭を押し付けてくる。
しばらくの間、頭や顔や、幾つかの遠慮を願いたい部位(3ヵ所)を除いて、体のあちこちを撫でてやった。
帰り際は僕たちが寺の敷地を出て左に曲がるまで、いつも真ん丸の目でこちらをジーッと見ている。

数歩歩いてドンの方を振り返り、ドンの目を見てしまうと、今まで何度戻ってまた撫でたことだろうか。
以前はカメラを向けると顔をそむけていたドンが、この日はそうはしなかった。
もう、目も見えにくくなっているのか。
ドン。
by 猫王子
四人のウメの叔父(?)